その日、黒の教団本部はかつてない程の衝撃に見舞われた。


  【OH MY LITTLE....】−1−


 「室長ーーー!!班長ーーー!!」

 その衝撃映像をはじめに見たのはジョニーであった。
 
 「うぉっ!?なんだ、ジョニー。どうした?」
 「びっくりするじゃないか。何なんだい急に」

 駆け付けたリーバーとコムイが口々にいう。だが、ジョニーの視線はある一点に注がれたままである。
 二人もつられて視線の先に目をやると、

 そこには、
 
 ここ数年間本部に寄り付きもしなかったクロス元帥と、
 
 彼の元へ戻るために本部を発ったはずのの姿。
 
 クロスが本部に戻ったというだけでも十分に驚くべきことであるが、
 それに輪をかけてジョニーが驚いているのにはワケがあった。
 が幼い子供を抱き上げているのである。それも、クロスによく似た赤い髪の子供を。

 「アッハハッ。もうこの眼鏡も替え時かな?なんだか見てはいけないものが見えちゃったよ

 そう言ってコムイは眼鏡のレンズをふく。

 「コムイさん・・・・」
 「アハハじゃねぇっすよ、室長・・・」
 「いい度胸してるじゃねぇか、コムイ・・・」

 対するは苦笑い、リーバーは呆れ顔、クロスにいたっては喧嘩腰である。
 と、今まで大人しくに抱かれていた子が居心地悪そうに身じろぎする。

 「マぁマ」
 「あ、」
  「「「ママぁ!?」」」

  だが、コムイ達はそれどころではなかった。

 (いッいいい今、ママって言いましたよ!?
 (じゃ、じゃあやっぱり父親はクロス元帥!?)
 (えぇ〜?いやだなぁ、クロスってば。ちゃんリナリーより下でしょ。※ 15歳です(笑)
  あんな年下なのに手ぇ出したんだ。犯罪じゃない?
  ((そういう問題じゃねえっすよ!!))
 (あれ、ちがうの?)

 「・・・よっぽど殺されたいらしいな」
 
 額を突き合わせて小声で話す三人に、クロスマジ切れ寸前。
 普段は彼を止める役割のは先程の大声に驚き、ぐずりだした子供をあやすのに必死である。

 「クロス、フィルが怖がってるからちょっとそのへん歩いてきますね」
 「あぁ。落とすなよ」
 「失礼ね、大事なフィルを落としたりなんかしませんよ。
  クロスも本部が嫌いだからって一人で出ていったりしないでくださいね」
 「誰がするか」
 「だといいですけど。コムイさん達と喧嘩しちゃだめですよ。
  あ、あと、アレンや神田を見つけてもからかったりしないで。特に神田は冗談通じないんですから」
 「神田っつったらあのガキンチョか・・・
 「そういうのがいけないんですよ、クロス・・・」
 「ったく、解ったからさっさと行け」
 「はい、師匠。さ、フィルいい子ね」
 
 なかばクロスに追い立てられるようにして、は歩いていった。


          * * *


 「さて、と」

  ガッ

 「いつまでそうしてるつもりだ、てめぇら。野郎が三人集まって暑苦しいんだよ」

 が完全に見えなくなってから、クロスが一番手近にいたコムイを蹴る。

 「いたッ、もう何この仕打ち〜。急にクロスが隠し子連れてくるのが悪いんでしょ」
 「勝手に人サマの恋模様を展開してんじゃねぇぞ、コラ。フィルは俺の餓愧でもの餓愧でもねぇんだよ」
 
 「え、なにじゃあ違う女(ひと)の子?」
 
 ((言いやがったよ!この巻き毛室長?!))
 
 さすがのクロスもコムイのこの発言には切れた様だ。
 
  ゴスッ

 クロスの拳がコムイの顔スレスレの位置を掠めている。
 
 「・・・・やだな、ジョークなのに。本気で殴ろうとしたでしょ。あ〜、壁に穴が・・・」
 「「今のは室長が悪い」」
 「とフィルの前で言ったらコロス
 「で?本当のところなんであの子を連れて教団へ来たの?」
 「・・・フィルは育ての親がAKUMAに殺されてな。死に際にフィルの親がエクソシストでそこまで送り届けてくれと頼まれた。
  エクソシストは全部で20人、生きてるか死んでるかもわからん人間を探すより里親を探してやったほうが賢明だと俺は言ったんだが
  がフィルに似たエクソシストを本部で見たことがあると言いだしてな。
  それで来たくもねぇ本部に来るハメになったんだが・・・」
 「何?どうしたの」
 「正直、が本当にフィルの親を見たってのは考え難い。
  俺の記憶が正しけりゃここ2〜3年で入団したエクソシストは
  アレンとぐらいだろうが、赤毛のヤツなんかいやしねぇ」
  
 クロスの言葉を聞いて、リーバーとジョニーがエクソシストの名簿を確認する。
 
 「確かに赤毛のエクソシストは現在の手元にある資料に載ってません。
  ジョニーそっちの昔のヤツはどうだった?」
 「載ってました、けどが入団する前に任務で・・」
 「じゃあちゃんが嘘ついたってこと?」
 「・・・・・・・」
 「・・・いや、その、ごめん。僕が悪かったからそんなに睨まないで
 「人聞きの悪い言い方すんじゃねぇよ。お前だってあいつの生い立ちは知ってんだろうが」
 「あぁ・・似てるね」

 もエクソシストの両親を持ち、伯父夫婦の養子として育った子供だ。
 
 「両親に会える可能性がないと解っていても、なにかをしてやらなければ気が済まなかったんだろうよ・・・そういう子だ」
 「そのために君も来たくもない本部に来たんだ?健気だねぇ」



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