ここから、始まる。


 【BEAUTIFUL】−4−


 私の父母はエクソシストだったらしい。
 とは言っても実際に会ったことはない。
 が、いやというほど研究員が呟いていた言葉だ。
 “エクソシストの娘だ、きっと上手くいく”−と


  「今までに・・・・ならまだ・・・」
  「しかし・・・・これ以上は・・・・・・近付けば・・・」

  ―ガタン

 耳が音を拾った。
 廊下からだ。
 研究員の声ではなく、小さく息を呑む気配。
 ほんの少し開いた扉の向こう側に自分とそう年の変わらないだろう女の子がいるのが見える感覚。
 黒い、髪の女の子。
 端整な顔立ち。
 でも随分とやつれてる。

  (エクソシストかな。)

 ぼんやりそう思った。


 女の子が、居た。
 教団の中でも特に入り組んだ場所にある部屋のまんなかで一人ポツンと椅子に座っている。
 自分と同じような黒い髪。自分と同じような背格好。話がしてみたくて
 でも見つかった時のことを考えると迂闊に扉を開くことができなくて
 もどかしい思いで立往生していると、ふいに声が聞こえた。

  『もうすぐ研究員が戻ってくるよ』

 ビクリとしてまわりを見渡すが誰もいない。だが再び声が響いた。

  『はやく。戻ってくるよ。右にまっすぐ行けば階段があるから。今ならそこから誰にも会わないで帰れるよ』
  「だれ?どこにいるの?」

 囁くように言えばまた声が返ってきた。

  『目の前の部屋だよ』

  (目の前の部屋、あの女の子が?)

 彼女から自分まで声が届くには距離がありすぎる。

  (何で声が・・・?)

  『!戻ってきた!!』

 そう考えているうちに研究員達が戻ってきてしまった。

  (どうしよう・・・)

 早く戻らなくてはならないのに、彼女のことが気に掛かって立ち去ることができない。

  「。時間だ」

 ヘブラスカが『』に近づく。
 その後の出来事はあまりに目まぐるしくて、リナリーにはよく解らなかった。
 
 光の渦の中にが呑まれる。
 次の瞬間には『』はどこにもいなかった。

 研究員達が騒ぎ始める。
 
  「な、何処へ行った?!」
  「ヘブラスカ、どういう事なんだ!?」
  「十分にありえた結果だろう・・・もともと・・・今までが奇跡だったようなものだ・・・・
   の安全の保障などどこにもない・・・神の意志しか彼女の行方はわからない・・」
  「っ探せ!!なんとしても見つけだすんだ!!」

 バタバタと忙しない足音が響く。
 運良くリナリーのいる扉は使われなかった。

  『・・・』

 まだ名前しか知らない。

  『どうか、無事で・・』

 それでもリナリーは祈らずにはいられなかった。



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